不動産の共有状態を解消するには?~知って納得! 土地持ち相続の話~

不動産の共有は、所得費用や税金を分割できる、相続を公平に行うことができるなど、便利な側面もあります。けれども使い方を間違えると、リスクのある所有方法とも言えるのです。とくに複数の不動産を、複数の相続人で共有した場合、共有者の意見がまとまらず、「売れない」「建て替えられない」「分割できない」ということになりかねません。
そこで今回は、「固定資産の交換の特例」を利用し、不動産の共有を解消した事例をご紹介します。

不動産の共有は、権利関係が複雑になりがち

関西某市のSさんは、50代の女性です。お母様はすでに他界しており、お父様とSさん、妹さんの間で共有状態となっている不動産を整理したいというご相談がありました。
ご資産の内容を拝見すると、不動産は20か所ほど。その多くが、ご家族3者間または2者間での共有となっています。Sさんのお祖父様やお祖母様、お母様の相続を経て、そうなったようですが、その陰には「2人の姉妹に不公平がないように」というお父様の配慮が窺えました。

しかし不動産が共有状態にあると、建物の修繕や売却の際に共有者の同意が必要です。例えば賃貸不動産においては一貫した経営計画が必要ですが、その際の意思決定プロセスが複雑になるというデメリットがあります。また自宅不動産に居住者以外の親族の持分が入り込んでいる場合は、リフォームや建て替えも自由にできません。さらに兄弟姉妹間での共有では、代替わりの度に関係者が増えていきますので、収拾がつかなくなりがちです。
Sさんは、こういった複雑な権利関係をクリアにするために、共有を解消したいというご要望をお持ちでした。

不動産共有解消のための選択肢とは?

共有を解消するには、「持分を譲渡する」、「持分を贈与する」などの方法があります。
Sさんの場合は複数の不動産をご家族間で共有している状態にありましたので、それぞれの持分を交換することで、一つ一つの不動産を完全所有権にしてはどうかと考えました。

ここでポイントとなるのが、「固定資産の交換の特例」です。これは譲渡所得における税金の特例で、互いに同じ種類の固定資産の交換において、譲渡する資産と取得する資産の差額が一定割合以内であれば、譲渡がなかったものとされます。つまり、所得税が発生しないのです。
この制度を利用するためには、特例が適用できる交換の組み合わせが必要です。そこで、まず、すべての不動産の財産評価額を精査し、どの不動産を誰のものとするかSさんご家族のご希望もお聞きしました。その上で、特例が適用できる交換の組み合わせを検討していったのです。

固定資産の交換特例を利用し、共有を解消

ところが、その過程でSさんのお父様が亡くなったとの訃報が入りました。悲しいことでしたが、Sさんからは引き続き相続税申告のサポートもご依頼されたので、お父様所有持分の相続を考慮して、交換の組み合わせを再調整しました。
交換を前提に遺産分割をすることについて税務署に照会したところ、不動産の用途が交換後に変わらなければ特例を適用する上で差し支えないとのこと。また本特例における価額とは時価を指しますが、これについても相続税上の財産評価額を時価に割り戻すことで支障ないとの確認が取れました。
Sさんと妹さんは相続税の申告・納税をすませた後、お2人の間で不動産の交換を実行し、税金の負担がなるべくかからない形で共有を解消することができました。

不動産の共有状態にお悩みの方はたいへん多く、交換の特例は相続対策ではしばしば登場します。実行する場合、資産の正確な価額の算定や将来の遺産分割等を見据えての検討が必要ですので、まずは専門家にご相談ください。

 

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フジ総合鑑定 住江 悠

株式会社フジ総合鑑定 大阪事務所 事務所長。不動産鑑定士。24年間で3,600件以上の相続税申告・減額・還付業務の実績を誇る、相続・不動産コンサルティング事務所で、公平な立場から不動産の評価を行う、相続・不動産のプロフェッショナル。