
削ってはいけないのは「差別化の核」である
こんな悩みはありませんか?
・建築費が高く、どこを削るべきか判断が難しい
・利回りを優先すると、物件の魅力まで薄れてしまいそうで不安
・親世代は収支を重視し、次世代は10年後の競争力を心配している
・建てた直後は良くても、将来の家賃下落や出口価値の低下が気になる
前回のブログでは、空室の原因は立地だけではなく、「入居者から選ばれる理由」があるかどうかが重要だとお伝えしました。
同じエリアでも、長く選ばれ続ける物件と、空室に悩む物件があります。
その違いは、駅距離や築年数だけでは説明できません。入居者にとって「ここに住みたい」と思える理由があるかどうか。そこが、これからの賃貸経営ではますます重要になります。
では、その“選ばれる理由”は、いつ決まるのでしょうか。
答えは、建てた後ではなく、建てる前です。
建築費が上がり続ける今、アパート計画で先に決めるべきなのは「何を削るか」ではありません。
何を削ってはいけないかです。
理由はシンプルです。コスト調整のつもりで、物件の「選ばれる理由」まで削ってしまうと、あとから入居付け、家賃維持、売却時の評価にまで影響するからです。
数字を合わせるだけの計画は、一見きれいに見えても、数年後に競争力の弱さが表面化することがあります。
反対に、選ばれる理由の核を守った物件は、市場が厳しくなっても粘り強く満室経営が実現できる傾向にあります。
このブログでは、建築費高騰時代に本当に守るべきものは何か、そして利回り重視型アパートがなぜ将来苦しくなりやすいのかを、できるだけわかりやすくお伝えします。
建築費高騰時代に起きていること
いま、アパート建築を検討するオーナー様にとって最大の悩みの一つが、建築費の上昇です。
資材価格、人件費、物流コストの上昇が重なり、数年前の感覚で事業計画を組むと、収支が合わなくなるケースは珍しくありません。
国土交通省は、2026年3月から適用する公共工事設計労務単価について、全国全職種単純平均で前年度比4.5%引き上げ、14年連続の上昇と公表しています。建築に関わる人件費の上昇圧力は、今も続いています。
また、国土交通省の資料でも、2021年後半から原材料費等の高騰に伴い、建設資材価格が高騰していると整理されています。
ここで多くの方が最初に考えるのが、「どこを削ればいいか」です。もちろん、無駄なコストは見直すべきです。ですが、私が一番危険だと感じるのは、削ってはいけない部分まで削ってしまうことです。
なぜなら、賃貸経営は建てた瞬間に終わるものではなく、その後10年、20年と市場の中で選ばれ続けて初めて成功と言えるからです。しかも賃貸経営は右肩上がりというわけではありません。
国土交通省の建築着工統計では、2025年の新設住宅着工戸数は74万667戸で前年比6.5%減、貸家は32万4,991戸で前年比5.0%減でした。つまり、コストは上がる一方で、市場が楽に吸収してくれる時代ではない、ということです。
だからこそ、建築費調整は単なるコストカットではありません。
将来の競争力をどこまで残せるかという経営判断です。
削ってはいけないのは「差別化の核」
建築費が厳しくなると、調整対象になりやすいのが、外観のデザイン、防犯性、共用部の質感、収納計画、動線、独立性といった部分です。
ただ、ここに大きな落とし穴があります。
入居者が最終的に比較しているのは、設備一覧の表面上の差だけではありません。
その物件に住むイメージができるかどうかです。
私たちGIFTが提唱する、削ってはいけないのは差別化の核です。
たとえば、女性入居者を強く意識した賃貸住宅なら、安心感は単なる付加価値ではありません。
防犯性、共用部の明るさ、視線への配慮、帰宅時の心理的な安心感まで含めて、その物件の価値そのものになります。
ここを削ってしまうと、家賃を少し抑えても「物件力」が弱くなり、決まりにくくなります。
PRIMAでいえば、この安心設計が削ってはいけない核です。
一方で、戸建て賃貸のように、集合住宅にはない暮らし心地そのものが価値になっている商品もあります。
独立性、上下階のストレスの少なさ、駐車のしやすさ、家族で暮らすイメージの持ちやすさ。
ここを削ってしまうと、「戸建てである意味」が薄れます。
La storiaでいえば、この戸建てという希少価値性が核です。
ここで大事なのは、PRIMAやLa storiaという商品名ではありません。
どんな物件でも共通して言えるのは、選ばれる理由の中心部分を削った瞬間、その物件は価格競争に巻き込まれやすくなるということです。
これは公的統計の断定ではなく、私が数多くの現場を見てきた個人的な見解です。
“利回り重視型アパート”が10年後に負ける理由
利回りを重視すること自体は間違いではありません。
問題なのは、初期の数字を成立させるためだけに、長期的な競争力まで削ってしまうことです。
私はここが、差別化を欠いた結果として陳腐化しやすいアパートの弱点だと見ています。
競争激化に弱い
似たような間取り、似たような外観、似たような設備の物件は、競合が増えた時に埋もれます。
比較された瞬間に差が見えなければ、最後に残る勝負材料は家賃です。
つまり、利回りを優先して建てたつもりが、築年数の経過とともに値下げでしか戦えない構造に陥りやすいのです。
家賃下落に弱い
新築時には埋まっても、数年後には新築時のプレミアム感が薄れます。
その時、選ばれる理由が弱い物件は、空室が増え、家賃を維持しにくくなります。
オーナーから見れば「まだ十分きれい」でも、入居者から見れば「他にもある」と映る。
この乖離に気づかないまま、気づけば空室が増えていることが、賃貸経営の厳しいところです。
出口価値が低下しやすい
売却時に見られるのは、今の収益だけではありません。
不動産鑑定評価基準では、不動産価格は将来の収益性等についての予測を反映して定まるとされており、収益価格の考え方でも純収益や還元利回りなどが重視されます。
したがって、差別化が弱く、家賃維持に不安がある物件は、出口時に不利になる可能性があります。
つまり、表面利回りを優先したつもりが、将来の売却局面では期待どおりに評価されないこともあり得る、ということです。
私自身、この点はオーナー様に特にお伝えしたいところです。
建築時の収支がきれいに見えることと、長く勝てる物件であることは、別問題です。
差別化された物件は、出口でも評価されやすい傾向がある
ここでいう差別化とは、豪華さや派手さのことではありません。
「この物件は、誰に、どんな価値で、永続的に選ばれる理由があるのか」 が明確であることです。
明確に差別化された物件は、入居者にとってわかりやすく、仲介会社にとっても紹介しやすく、オーナー自身も家賃設定の根拠を持ちやすくなります。
結果として、募集時に価格以外の理由で選ばれやすくなります。
これは出口でも同じです。
買い手から見れば、将来の収益が安定して見込める物件の方が評価しやすい傾向があります。
逆に、特徴がなく、どこにでもある、いわゆる陳腐化しやすい物件は、価格以外の説明が難しくなります。
不動産鑑定評価基準が前提にしているのも、単年の数字だけではなく、対象不動産の収益性や将来見通しを踏まえた評価です。
だからこそ、差別化が明確な物件の方が、出口でも説明しやすく、評価されやすい傾向があると考えています。
私は、これからの賃貸経営では「建てること」以上に、市場の中でアイデンティティ(他にはない強み)を持てる物件にすることが大事だと思っています。
メーカーのブランド名の話ではありません。
「あの物件は、他とは違ってこうだから、こういう人に選ばれる」
そう説明できるかどうかです。
それが「アイデンティティ」になります。
親世代・次世代が建てる前に合意すべきこと
地主様・家主様のご相談では、親世代と次世代で見ているポイントが違うことがよくあります。
・親世代は、今の収支、借入、建築費を気にする
・次世代は、将来の競争力、維持管理、承継後の負担を気にする
どちらも正しい視点です。
だからこそ、建てる前に次の3点だけは共有しておくべきです。
1. 誰に貸す物件なのか
入居者像が曖昧だと、設計も募集も弱くなります。
2. 何を価値として選ばれるのか
安心感なのか、独立性なのか、世界観なのか、ストーリー性なのか。
全部を盛るのではなく、核を決めることが重要です。
3. 10年後以降にどう残したいのか
今の利回りだけでなく、10年後以降も持ち続けたいと思える物件か。ここを建てる前に話し合っておくべきです。
個人的に率直に言えば、ここを曖昧にしたまま進める計画はかなり危険です。
建築は大きなお金が動くので、どうしても「今」の数字に引っ張られます。
ですが、本当に怖いのは、建てた後に「思っていたより弱い物件だった」と気づくことです。
それは、あとから簡単にはやり直せません。
GIFTの見解:これからの賃貸経営の判断軸
前回のブログでお伝えしたように、これからの賃貸経営で重要なのは、立地だけに頼るのではなく、入居者から選ばれる理由を持つことです。
そして今回、私たちGIFTが特にお伝えしたいのは、その“選ばれる理由”は、建てた後に付け足すものではなく、建てる前に決めておくべきものだということです。
建築費が高騰している今、多くのオーナー様は「どこを削るか」に意識が向きます。
もちろん、それは経営判断として当然です。
ですが、私たちは数多くの現場を見てきた中で、削るべきではない部分まで削ってしまった計画ほど、後になって苦しくなりやすいと感じています。
オーナー様の中には、親から引き継いだ土地だから無駄にしたくない、次の世代に負担を残したくない、自分の代で失敗したくない、そんな思いを持っている方が多いはずです。
私も、その気持ちはとてもよくわかります。
だからこそ私たちGIFTは、目先の利回りだけが整った計画よりも、10年後、20年後に「あの時この判断をして良かった」と思える物件づくりを大切にしたいと考えています。
建築は、一度決めると簡単には戻れません。
だからこそ、最初の判断が大事です。
いくらで建つかより先に、誰に、どんな理由で、永く選ばれる物件にするのか。
そこを曖昧にしないことが、結果として収益も、出口も、そしてご家族の安心を守ることにつながると、私たちは考えています。
まとめ
本記事でお伝えしたいポイントは、次の3つです。
1. 建築費が高い時ほど、「何を削るか」より「何を削ってはいけないか」が重要です。
コスト調整を優先しすぎると、物件の“選ばれる理由”まで失いかねません。
2. 利回り重視だけの物件は、10年後に競争力を失いやすくなります。
家賃維持、空室対策、出口価値まで見据えるなら、建てる前の差別化設計が欠かせません。
3. これからの賃貸経営で大切なのは、「この物件なら住みたい」と思われる理由を最初に決めることです。
立地や数字だけに頼らず、誰に、どんな価値で選ばれる物件にするのかを明確にすることが、長期的に強い経営につながります。
出典
- 国土交通省「令和8年3月から適用する公共工事設計労務単価について」
- 国土交通省「建築着工統計調査報告(令和7年計)について」
- 総務省統計局「令和5年住宅・土地統計調査 住宅及び世帯に関する基本集計(確報集計)結果」
- 国土交通省「不動産鑑定評価基準」および「不動産鑑定評価基準運用上の留意事項」
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古川 健一
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