優先順位は1に「分割」、2に「納税資金」、3に「節税」
前回、相続対策は「分割」、「納税資金」、「節税」の3つであるとご説明しました。実は、この順番も重要なのです。
相続対策というと、真っ先に税金対策をあげる方も多いと思います。しかし、その前に遺産を誰にどう分けるかという「分割」を決めておかなければ、正しい納税申告ができませんから税金対策はできません。さらには、相続人同士がトラブルになってしまう可能性もあるのです。
実例をご紹介しましょう。
親から譲り受けた土地に自宅を建てた方です。実は相続の際にご兄弟と揉めたので、価格賠償というお金を払う方法で土地を相続しました。ですから、住宅費以外のローンも組むことになってしまったのです。お子さんが3人いたため、教育費もかかりました。そのため定年間近になったものの、退職後もローンを払わなければならない状況に。不動産売却も考えましたが、苦労して相続した土地でもあり手放したくない。できれば子どもに引き継いでほしい。そんな思いがありました。
そこで、お子さんうちの1人を後継者として親子でリレーローンを組み、自宅にアパートをプラスした賃貸併用住宅を建てることにしたのです。
相続に関わる人全員が、オープンに話し合える場をつくる
その方には3人のお子さんがいるわけですから、1人の子どもだけが相続するとなると、他の2人は納得しません。ご本人が亡くなった場合、例え遺言に「1人の子どもに全財産を相続させる」と書いてあっても、残りの2人には「遺留分」という、法律で保障された遺産所得の権利があります。その方には預貯金がないからローンで家を建てたのですから、請求されても分ける現金はありません。お子さんに、ご自分と同じ轍を踏ませることになるのです。
その方は、どうしたと思いますか。
まず、ご自身の財産をすべて明らかにしました。そして、ご自身の経験を踏まえた、家に対する思いを伝えたのです。さらに、それらを書面にして、全員が確認できるようにしました。その上で家族会議を何回も繰り返した結果、すべてのお子さんが納得し、賃貸併用住宅の建築に至ることができたのです。法的効力はありませんが同意書を書いてもらい、「分割」という相続対策ができました。
ここでいちばん大切なのは、1人で悩んで決めたのではなく、相続に関わる人全員が話し合って、どうするかを決めたことです。ご本人はもちろん、関わる人すべてが、現在の自分の状況や考えていることをオープンにしたからこそ、信頼関係が生まれ、理解することができました。
そのプロセスこそがトラブルを回避するポイントであり、生前にやっておくべき相続対策なのです。
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司法書士 飯田茂幸
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