築古アパートのオーナー様は、家賃収入の減少や建物の老朽化など、多くの課題を抱えていることと思います。建て替えは、これらの問題を一挙に解決し、新たな収益源を生み出すチャンスです。しかし同時に、失敗という大きなリスクも伴います。
この記事では、建て替えを決断するべきかどうかの判断基準(モノサシ)となる6つの軸を具体的に解説していきます。この6つの軸をしっかりと理解することで、オーナー様はより自信を持って最適な決断を下せるはずです。
1. 築年数:そろそろ限界かも?
・築30年を超える建物:建物の構造や素材によっては、30年を過ぎると老朽化が進み、大規模な修繕が必要になるケースが多くなります。屋根、外壁、設備機器やエアコン等は10年~15年、給排水は30年を目安にして修繕が必要になります。当然、修繕費用が増えるだけ、家賃の手残りが少なくなり収益性が右肩下がりになります。なので機会損失を防ぐためには、建て替えを見極める年数は30年を目安とするのが妥当です。
・耐震基準の変化:建てられた当時の耐震基準と現在の基準が大きく異なっている場合、地震に対するリスクが大きくなります。1981年5月31日以前に建てられた建物は必ず耐震診断を行ってください。なぜかと言うと、1981年6月1日の改正では、耐震基準が震度5から震度6~7に変更されました。つまり、1981年5月31日以前に建てられたアパートは、震度6~7で倒壊する危険性が高いということです。
法定耐用年数を過ぎているかどうかも耐震性をクリアしているかどうかを判断する一つの目安となります。
2. 空室率:50%以上は建て替え検討のサイン
・長期にわたる高空室率:一般的に、空室率が50%を超える状態が続いている場合、建物の魅力が低下していると考えられます。但し、すぐに建て替えないでください。その理由は残り50%の入居者の方を退居させるのに手間と労力と費用がかかるからです。なので、50%になった時点で入居募集を停止して、80%以上になった時に立ち退き交渉を行うのがベストかと考えます。
・入居者の入れ替わりが激しい:短期間で入居者が頻繁に入れ替わる場合は、建物の状態や周辺環境、あるいは入居者間の問題がある可能性があります。
現状をしっかり把握するためには、管理会社とのコミュニケーションを積極的に定期的に行いましょう。
3. 修繕費の増加:今のままでは損しているかもしれない?
・大規模修繕の頻度が増加: 屋根の葺き替え、外壁の改修、設備の入れ替えなど、大規模な修繕が頻繁に必要となる場合、その分だけ家賃収入から持ち出しも増加します。築30年にもなれば想定外の修繕も十分考えられますし、新築時から家賃設定を落とさずに満室経営が出来ている保証もありません。現実的な話、収益性は右肩下がりになるのが必然ですので、いつどんな修繕が発生して出費がどのくらいになるか?シュミレーションしておくのも大切です。
・修繕費用が建物価格の一定割合を超える:一つの判断基準として、修繕費用が建物の価格の5%から10%を超える場合は、建て替えを検討する必要があります。
・築30年を超える建物は所得税の負担が増加:アパート経営の場合、建物の法定耐用年数に基づいた減価償却期間は所得税申告時に経費形状ができて節税できますが、築30年を超えた場合、大抵の建物は減価償却期間が終了し、空室が増えて収益性が悪化している反面、所得税の負担は増えています。但し、節税対策をすることで所得税の負担増加を軽減することも可能です。
※参考資料:「初心者でもわかりやすい!大規模修繕計画の作り方」のブログはコチラ:https://www.prima-apartment.com/apart-keiei/10484/
4. 入居者の属性の変化:時代の流れに乗り遅れないように!
・ターゲット層とのミスマッチ:以前は人気があった物件でも、時代の変化とともにターゲット層が変わり、魅力が薄れている可能性があります。周辺の新築競合物件の調査や周辺のターゲットニーズを把握するために定期的に市場調査を行うことでミスマッチを無くして空室の増加を防ぐことができます。
・入居者属性とのミスマッチ:単身者向けの物件に高齢者が多くなるなど、いつの間にか入居者の属性が変化している場合、建物の設備や間取りが、現在の入居者のニーズに合っていない可能性があります。管理会社に任せっきりにしないで、オーナー自らが定期的に入居者の属性の把握、声を聞くことをおすすめします。
5. 建物の状態:定期的な健康診断やっていますか?
身体も定期的な健康診断を行うことで、早期発見、早期治療が可能です。そうすれば治療期間も短くなり、治療費も安くなる等メリットしかありません。
建物に置き換えても同じことが言えます。つまり建て替えを判断する目安にもなります。特に建物に影響を及ぼす項目を紹介します。
・外壁のひび割れ、剥落: 外壁のひび割れや剥落は、雨漏りの原因となり、建物の構造を損なう可能性があります。
・屋根の劣化:屋根の葺き替え時期を過ぎている、瓦が割れているなど、屋根の劣化は雨漏りや断熱性の低下につながります。
・設備の老朽化:給排水設備、電気設備、ガス設備などが老朽化し、故障が頻発する場合は、交換が必要となります。
・シロアリ被害:木造建物では、シロアリ被害が深刻な場合、建物の構造が損なわれる恐れがあります。
建物の状態を診断する依頼先としては、管理会社、建築士事務所、不動産鑑定士、建物診断を専門とするホームインスペクション会社等があります。
6. 資金計画:無理のない計画がベスト
判断する基準として、資金が準備できるかどうかも重要なポイントです。
築古アパートの建て替え時に必要な費用、建て替えに必要な資金調達方法のお話をします。
・建て替えに必要な費用:解体費用、建設費用、設計費用、不動産取得税・登録免許税、他にも諸経費として地盤調査や地盤改良費用、測量費用、立ち退き費用、引っ越し費用、仲介手数料等押さえておくことが大事です。
【費用の目安】
◎解体費用:木造アパート場合は坪4~6万円、鉄骨造アパートの場合は坪6~8万円です。但し、施工条件によって金額の増減がありますのでご注意下さい。
例えば、周辺道路が狭くて重機やとトラックが入りにくい場所や高低差がある場所は追加料金が発生します。
◎立ち退き費用:家賃の3~6ヶ月分が相場です。立ち退き費用には次の内容が含まれます。引っ越し費用、仲介手数料、家賃の差額(新しい住居の家賃が現在の家賃よりも高くなった場合)が含まれています。
◎地盤改良費用:
・表層改良工法:1万円~3万円/坪
・柱状改良工法:3万円~5万円/坪
・鋼管杭工法:5万円~7万円/坪
※地盤改良の工法及び費用に関する引用元:https://www.tbs-housing.com/column/knowledge-information/cost-of-ground-improvement-work
・資金調達の種類:自己資金、銀行融資、不動産投資ファンド、国や自治体からの補助金や助成金など、様々な資金調達方法があります。
◎自己資金
メリット:金利負担がなく、融資の審査を受ける必要がないため、スピーディーに建て替えを進められる。
デメリット:大規模な建て替えには、まとまった自己資金が必要となる。
活用例:手持ちの資金や売却益などを活用する。
◎銀行融資
不動産担保ローン
特徴:自社のアパートを担保に、銀行から資金を借入する方法です。安定した収入が見込める場合、比較的融資を受けやすいです。
メリット:融資額が大きく、金利が比較的低い。
デメリット:担保となる不動産が必要であり、審査に時間がかかる場合がある。
事業性評価ローン
特徴:将来の収益性に基づいて融資を受ける方法です。
メリット:担保がなくても融資を受けられる可能性がある。
デメリット:収益計画の詳細な作成が必要となり、審査が厳しくなる場合がある。
◎不動産投資ファンド
特徴:不動産投資を専門とするファンドから資金調達する方法です。
メリット:大規模な資金調達が可能で、専門的なノウハウを持ったファンドからサポートを受けられる。
デメリット:収益の一部をファンドに支払う必要がある。
◎補助金・助成金
特徴:国や地方自治体から、耐震改修や省エネ改修など、特定の目的の達成に対して補助金や助成金が支給される場合があります。
メリット:費用を大幅に削減できる。
デメリット:申請手続きが複雑で、採択されるかどうかは不確実。
資金調達方法を選ぶ際のポイント
・建て替え規模:小規模な改修であれば自己資金や銀行融資で十分ですが、大規模な建て替えの場合は、不動産投資ファンドやクラウドファンディングも検討する。
・資金調達のスピード:スピーディーに建て替えを進めたい場合は、自己資金や銀行融資が適している。
・リスク:資金調達方法によって、リスクは異なる。
・手数料:各資金調達方法には、手数料や利息などの費用がかかる。
・専門家のアドバイス:税理士や不動産コンサルタントなどの専門家に相談し、最適な資金調達方法を選ぶ。
具体的な検討事項
・現在の借入状況:既存のローンが残っている場合は、返済計画を立て直す必要がある。
・物件の収益性:建て替え後の家賃収入の見込みを立て、返済計画に組み込む。
・金利動向:金利上昇のリスクも考慮し、資金調達方法を選ぶ。
・税制優遇:税制優遇措置があるかどうかを検討する。
・収支計画のポイント:建て替え後の家賃収入と経費をシミュレーションし、収支計画を立てましょう。
まとめ
古いアパートの建て替えは、法定耐用年数や建築基準法、空室率が検討の目安になります。建て替えには家賃収入の増加が見込める反面、高額の借り入れが必要になるため、慎重に検討したいところですね。
建て替えで大事なことはタイミングを逃さないことです。材料費や建築費の高騰により建て替えしようと考えていても躊躇するオーナーも少なくないはずです。もちろんタイミングを見ることは大切ですが、数年後には価格が下がるという保証もありません。
このまま古いアパートを修繕をしながら経営を続けるか?あるいは、思い切って建て替えをして収益性の改善を図るか?「木を見て森を見ず」という言葉のように、全体を見て計画を立てることが大事だと私達は考えています。それが、オーナー様ごご自身、そして遺された家族の幸せに繋がります。
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古川 健一

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